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信頼を基本にした方法を社会が許容するだけで、情報テクノロジーの助けを借りなくても、駅と都市が融合する空間はできるかもしれません。
また図書館についても、地下鉄文庫のように、借りたまま返却されなくてもかまわないシステムがすでに存在しています。
貴重本を扱わなければ、ICチップなど使わなくても、どこからでも自由に出入りできる図書館は可能でしょう。
もし情報技術の発達が、そうしたほかの可能性、つまり別の選択肢の存在を忘却させているのだとしたら、かえって創造的な思考を不自由にしていることになります。
そもそも新しいテクノロジーを活用しないといけないという強迫観念にとらわれているのではないでしょうか。
最後に、まったく異なる切り口から建築の可能性を紹介します。
ケータイやインターネットの登場は、たしかにわれわれの空間の感覚や距離にたいする考え方を変えてしまいました。
たとえば、遠いのに近いこと。
つまり、離れた場所にいる人と、移動しながらでも簡単にコミュニケーションができます。
逆に、近いのに遠いことも発生します。
つまり、隣にいるのに別の空間と接続しているような状態。
こうした空間のモデルは、妹島和世の《鬼石町多目的ホール》(二〇〇五)や、藤本壮介の《安中環境アート・フォーラム》のコンペ最優秀案などにおいて実現されているように思います。
いずれの建築も、焼けたおもちのように、ぐにゃぐにゃの形状をもちます。
藤本は、このプロジェクトが「空間を共有しているけれども別々になっていたり、くっついているけれども離れているという奇妙な状態を実現できる」といいます(『オルタナティブ・モダン』TNプローブ)。
不定形なヒトデのような輪郭をもっているので、隣の部屋にいても視界に入らない一方、遠くにある向かい部屋が視覚的に連続しているからです。
つまり、「離れていると同時につながっている空間……一見ローテクな空間の特性を最大限に使いながら」、インターネットと同じような空間の性質を獲得し、建築の可能性を拡張しています。
彼の《T HOUSE》(二〇〇五)も中央を共有しつつ放射状に壁を入れることで、同じ性質の空間を獲得していました。
もっとも、こうした空間のモデル自体、モバイル社会の到来によって想像されて、意義を認められるようになりました。
飛び道具のような情報技術の装置を導入しなくても、建築では新しい空間概念を表現できるのです。
情報のウィルスホラー小説・映画の「リング」「らせん」に興味深いコンセプトがあります。
呪いのヴィデオを見ると、視覚的な情報に変換されたウィルスが体内に侵入し、細胞が変化して、死にいたる病に感染するというものです。
しかも伝達するメディアが必ずしもヴィデオでなくてもいい。
映像を喚起するような詳細な文章を読むことで、その情景が頭のなかで思い浮かべることができれば、やはり感染する。
もちろん医学的には荒唐無稽な話ですが、美術や建築などの視覚的な芸術に限っていえば、情報のウィルスという考えはありえると思います。
ただし、「感染」ではなく、ある作品から「影響」されると呼びますが。
そのものを見なくても、こうらしいという伝聞にもとづいても、作品の影響関係は発生する。
そういう意味で情報の遺伝子があるとすれば、強い影響力をもった傑作は写真や伝聞といった別のメディアを通じて、突然変異をときに起こしながらも、類似した作品群をあちこちに発生させるといえる。
他の生物の力を借りて自己増殖するウィルスのような形で伝播していく。
すると、この話は美術・建築における影響関係を考えるうえで興味深い。
古代には、ウィトルウィウスの『建築書』が存在しました。
しかし、これはテキストしか残っていないし、どういう図版があったかもよくわからない状態ですから、古代ローマの時代に各地で似たような建築がつくられたのは、明らかに支配関係です。
世界帝国が各地に植民都市をつくり、同ドしデザインを移植することで流布していく。
つまり、この現象はメディアによるものではない。
また中世の後期には、ゴシック様式が各地に伝播しましたが、これも宗教の力が強かった。
むろん、大工の移動も技術移転の要因になっています。
メディアが時間を加速させるそういう意味で、純粋にメディアだけで建築が広がるのは、近世の活版印刷術の普及以降でしょう。
とくに建築でいえば、イタリアの建築家、アンドレア・パッラーディオの『建築四書』二五七〇)が画期的でした。
彼の功績は、たんに建築論を書くのではなく、自分の作品を図版入りで解説を付けて紹介するという、いま建築家があたりまえにおこなっている作品集のシステムを最初に確立したことです。
いまほど交通が発達していない状況であるにもかかわらず、遠くイギリスでも、多くのパッラーディオの模倣を生むのは、書物だけでも彼の建築情報を入手できたからです。
書物によって、彼のフォロアt、エピゴーネンの増殖を可能にした。
パッラーディオは、メディアによって有名になった最初の世代の建築家です。
近世に一度そういう変革があるのですが、その次に重要だと思われるのは、十九世紀における建築雑誌の誕生です。
建築雑誌は一八三〇年ごろに登場します。
定期刊行物が興味深いのは、まさにその定義にかかわることですが、時間を定期的に区切ることです。
本だったら、一度出ればそれっきりですが、雑誌は月刊だろうと週刊だろうと、ある二足の期間が経つと、必ず次の号が出る。
ページをめくるように、時間の節目が意識される。
そういう意味で、同時代性という感覚を生みだします。
つまり、一方では新しいものという流行を生みだしながら、昔の号の作品を古いものとして追いやってしまう。
ベネディクト・アンダーソン二九三六)が一九八三年に発表した『想像の共同体』二九九一年に改版)のなかで、国民国家の概念を議論しながら、新聞や連載小説に注目する。
とくに新聞は、定期的にニュースを伝達し、同時期の事件を整理していくわけです。
相互に関係のない事柄もつなぎながら読んでいくことにより、世界の断面を定期的に口王示される。
すると、その読者たちは想像の共同体をつくりだす。
同ドしように建築雑誌も、建築の世界で何が起こっているかということをメディアを通じて、定期的に切り取る。
最新の建築も、二足期間がたつと、古いものになり、新しい号が刊行されることを繰り返し、流行がメディアによってつくられていく。
そうしためまぐるしい流れが発生します。
メディアが時間を加速させるのです。
写真と近代建築ピーター・コリンズの著書は、いろいろな視点から近代建築を分析しているのですが、やはりメディアの問題を取りあげています。
彼によれば、十九世紀のイギリス建築が粗悪なディテールだったのは、当時の『The Bui―der』という雑誌が木版を使っていて図版の精度が悪かったから。
一方、フランスの建築が繊細なディテールをもっていたのは、雑誌が金属製版を使っていて、より精度の高い図版を載せていたからだと指摘しています。
建築がメディアに表象されるのではなく、逆にメディアが建築に影響を与えるという興味深い論点です。
彼は、写真が雑誌に導入されてからは、建築家の側から提出される透視図に頼る必要がなくなり、編集者の側からフォトジェニックな建築を選択できるようになったと述べています。
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